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「年金は遅く受け取ると増えるらしい」「でも、早く死んだら損になるのでは?」──年金の繰り下げ受給は、40代・50代になると気になり始めるテーマです。繰り下げると、1か月ごとに年金が0.7%ずつ増え、その増え方は一生続きます。一方で、受け取りを始めるのが遅くなる分、「何歳まで生きれば元が取れるか」という損益分岐点があります。この記事では、2026年時点の制度をもとに、損益分岐点を早見表で試算し、繰り下げで見落としやすい注意点を整理します。
この記事でわかること
- 繰り下げ受給のしくみ(何歳まで・何%増えるか)
- 66歳〜75歳まで、繰り下げた場合の年金額と損益分岐点の早見表
- 平均余命から見た「繰り下げが向く人・向かない人」
- 加給年金・在職老齢年金・税金など、損益分岐点が変わる注意点
- 40代の筆者が繰り下げたいと考える理由
- 40代・50代の今からできる準備
この記事の前提(2026年10月時点)
- 制度の内容は、日本年金機構「年金の繰下げ受給」(2026年8月12日更新)で確認しています
- 試算は「65歳時点の年金が月15万円」と仮定した計算例です。税金・社会保険料は差し引いていない額面の金額です
- 年金額は物価や賃金で毎年改定されますが、試算では改定がないものとしています
年金の繰り下げ受給とは|1か月遅らせるごとに0.7%増える
老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則65歳から受け取れます。この受け取り開始を66歳以後に遅らせるのが繰り下げ受給です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 繰り下げできる時期 | 66歳から75歳まで(昭和27年4月1日以前生まれの人などは70歳まで) |
| 増える割合 | 1か月あたり0.7%(1年で8.4%) |
| 最大の増額 | 75歳まで繰り下げて84% |
| 増えた割合 | 一生変わらない |
| 基礎年金と厚生年金 | 別々に繰り下げできる(片方だけ65歳から受け取ることも可能) |
ポイントは、 一度増えた割合が一生続くこと です。長生きするほど、繰り下げで増えた分の効果が大きくなります。逆に、受け取り開始を遅らせている間は年金が入らないため、その間の生活費は給料や貯蓄でまかなう必要があります。
なお、65歳より前に受け取る「繰り上げ受給」もあります。こちらは1か月あたり0.4%(昭和37年4月2日以後生まれの場合)減り、減った割合も一生続きます。
繰り下げた場合の年金額と損益分岐点|早見表
65歳時点の年金が月15万円の人が、受け取り開始を遅らせた場合の計算例です。
| 受け取り開始 | 増額率 | 年金の月額(計算例) | 損益分岐点(額面) |
|---|---|---|---|
| 65歳 | − | 15万円 | − |
| 66歳 | 8.4% | 約16.3万円 | 約77歳11か月 |
| 68歳 | 25.2% | 約18.8万円 | 約79歳11か月 |
| 70歳 | 42.0% | 約21.3万円 | 約81歳11か月 |
| 72歳 | 58.8% | 約23.8万円 | 約83歳11か月 |
| 75歳 | 84.0% | 約27.6万円 | 約86歳11か月 |
※損益分岐点は、65歳から受け取った場合と受け取り総額が同じになる年齢です。年金額の改定や、税金・社会保険料は考慮していません。
表を見ると、損益分岐点は 「受け取りを始めた年齢+約12年」 になっています。これは年金額に関係なく同じです。年金が月10万円の人でも月20万円の人でも、70歳から受け取れば約81歳11か月で、65歳から受け取った場合の総額に追いつきます。
受け取り総額で比べるとどうなるか
同じく65歳時点で月15万円の場合、何歳まで生きたかで受け取り総額がどう変わるかを比べます(額面・計算例)。
| 何歳まで受け取るか | 65歳から | 70歳から | 75歳から |
|---|---|---|---|
| 80歳 | 2,700万円 | 2,556万円 | 1,656万円 |
| 85歳 | 3,600万円 | 3,834万円 | 3,312万円 |
| 90歳 | 4,500万円 | 5,112万円 | 4,968万円 |
80歳までなら65歳から受け取った方が多く、85歳・90歳まで生きると70歳からの方が多くなります。75歳からは、約87歳で65歳からの総額を上回りますが、90歳時点では70歳からの方がまだ多い計算です。
平均余命から考える|男性は約85歳、女性は約90歳まで
損益分岐点を「何歳まで生きそうか」と比べるために、厚生労働省の「令和7年簡易生命表」を見てみます。
| 男性 | 女性 | |
|---|---|---|
| 65歳の平均余命 | 19.68年(約84.7歳まで) | 24.52年(約89.5歳まで) |
| 平均寿命 | 81.35歳 | 87.33歳 |
65歳まで生きた人は、男性で平均して約85歳、女性で約90歳まで生きる計算です。この数字だけで見ると、70歳までの繰り下げは損益分岐点(約82歳)を平均余命が上回り、75歳までの繰り下げは男性だと損益分岐点(約87歳)が平均余命より後ろになります。
平均余命は「目安」
平均余命は全体の平均で、一人ひとりの寿命を予想するものではありません。健康状態や家族の傾向によって考え方は変わります。「平均より長く生きたときに困らないようにする」という保険のような考え方で繰り下げを選ぶ人もいます。
繰り下げで見落としやすい注意点
損益分岐点の表は、あくまで額面の計算です。実際には次のような点で、得か損かが変わります。
1. 加給年金は繰り下げ中にもらえない
厚生年金に20年以上加入していて、年下の配偶者や子どもがいる場合、「加給年金」が上乗せされることがあります。ただし、老齢厚生年金を繰り下げている間は加給年金を受け取れず、繰り下げても加給年金は増えません。対象になりそうな人は、老齢厚生年金は65歳から受け取り、老齢基礎年金だけを繰り下げるという選び方もあります。
2. 働きながらだと、増えない部分がある
65歳以降も会社員として厚生年金に入って働く場合、給料と年金の合計が一定額を超えると年金の一部が止まる「在職老齢年金」というしくみがあります。2026年4月から、この基準額は月51万円から月65万円に引き上げられました。止められる部分は、繰り下げても増額の対象になりません。給料が高い人ほど、繰り下げの効果が小さくなる点に注意が必要です。
3. 手取りで見ると損益分岐点は後ろにずれる
年金が増えると、所得税・住民税や、国民健康保険・介護保険の保険料も増えることがあります。医療や介護の自己負担の割合に影響する場合もあります。そのため、手取りで計算すると損益分岐点は表の年齢より後ろにずれることがあります。どのくらいずれるかは、収入や住んでいる自治体によって変わります。
4. 繰り下げ中に亡くなると、増えた分は受け取れない
繰り下げの手続きは本人しかできません。繰り下げを待っている間に亡くなった場合、遺族が受け取れる未支給年金は65歳時点の金額で計算され、5年より前の分は時効で受け取れません。また、繰り下げで増えた分は、遺族厚生年金の金額には反映されません。
5. 70歳以降に「やっぱり一括で」も選べる
繰り下げを待っていたものの、途中でまとまったお金が必要になることもあります。70歳以降に、65歳からの年金をさかのぼって一括で受け取ることを選んだ場合は、請求した日の5年前に繰り下げを申し出たものとして増額した年金が一括で支払われるしくみがあります(昭和27年4月2日以後生まれの人など。80歳以降の請求は対象外)。ただし、さかのぼって受け取ることで、過去の税金や保険料に影響する場合があります。
繰り下げを選ぶ前に確認したいこと
- 繰り下げている間の生活費を、給料・貯蓄・退職金・iDeCoなどでまかなえるか
- 加給年金の対象になるか(年下の配偶者がいるか)
- 65歳以降も厚生年金に入って働く予定か
- 夫婦それぞれの年金をどうするか(片方だけ繰り下げる選び方もある)
繰り下げが向いている人・向いていない人
| 向いている人 | 慎重に考えたい人 |
|---|---|
| 65歳以降も働いて、生活費を給料でまかなえる人 | 65歳以降の生活費が年金頼みになる人 |
| 貯蓄や退職金・iDeCoで「つなぎ」のお金がある人 | 年下の配偶者がいて、加給年金の対象になる人 |
| 長生きしたときのお金の不安を減らしたい人 | 65歳以降も給料が高く、在職老齢年金で年金が止まりやすい人 |
| 健康に不安が少なく、家族も長寿の傾向がある人 | 健康に不安があり、早めにお金を使いたい人 |
繰り下げは「得か損か」の二択ではなく、65歳から何年分の生活費を、年金以外でまかなえるかで決まります。つなぎのお金があるほど、繰り下げを選びやすくなります。
【筆者の考え】体が動くうちは、受け取りを遅らせたい
40代の筆者(とも)は、体が動くうちは年金を繰り下げたいと考えています。
きっかけは、職場で60歳を超えても第一線で活躍している先輩方の姿です。皆さんとても若く、生き生きと働かれていて、正直に言うと憧れます。
ただ、繰り下げたい理由は「受給額を増やしたいから」ではありません。自分らしく働ける年齢は人それぞれです。年齢の概念を意識せず、常に努力し続ける姿勢が大切だということを、先輩方から学ばせてもらっています。そうやって働き続けた先に、年金を受け取る時期を遅らせる選択がある。それが今の考えです。
40代・50代の今からできる準備
繰り下げを選べるかどうかは、65歳の時点ではなく、それまでにどれだけ「つなぎのお金」を用意できたかで決まります。40代・50代のうちにできることは、次の3つです。
- ねんきん定期便で、自分の年金の見込み額を確認する(見方はねんきん定期便の見方で解説しています)
- 65歳以降の生活費と、年金とのすき間を計算する(老後資金はいくら必要?で計算方法を紹介しています)
- NISA・iDeCoで「つなぎのお金」を準備する(iDeCoは2026年12月から掛金の上限が上がります。iDeCo改正まとめで整理しています)
「自分の場合は何歳から受け取るのがいいのか」を一人で決めるのが難しいときは、家計全体を見てくれるFP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのも一つの方法です。年金の見込み額、退職金、貯蓄、働き方をまとめて見てもらうと、繰り下げを選ぶ余裕があるかが具体的にわかります。
よくある質問
Q. 繰り下げの手続きはいつ、どうやってする?
A. 65歳になったときに年金の請求をせずに待ち、66歳以後の受け取りたい時期に手続きします。手続きをした時点で増額率が決まります。65歳前に届く年金請求書で、繰り下げを希望する年金を選ぶ方法もあります。詳しくは日本年金機構の案内を確認してください。
Q. 夫婦で片方だけ繰り下げるのはあり?
A. できます。また、一人の年金でも、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げられます。加給年金の対象になる場合は、老齢厚生年金を65歳から受け取り、老齢基礎年金だけを繰り下げる考え方もあります。
Q. 75歳を過ぎてから手続きしたら、もっと増える?
A. 増えません。増額は75歳(上限が70歳の人は70歳)までで、それ以降に手続きしても、75歳時点の増額率で計算されます。
まとめ|繰り下げは「つなぎのお金」があるかで決める
年金を繰り下げると、1か月あたり0.7%、75歳までで最大84%増え、その割合は一生続きます。損益分岐点は「受け取りを始めた年齢+約12年」で、70歳から受け取るなら約82歳、75歳からなら約87歳です。
大切なのは、損益分岐点だけで決めず、65歳から繰り下げを終えるまでの生活費をどうまかなうかを先に考えること です。加給年金や在職老齢年金、税金・保険料の影響も含めて、自分の場合で確認しておきましょう。
※制度の内容は、日本年金機構「年金の繰下げ受給」(2026年8月12日更新)、日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」、厚生労働省「令和7年簡易生命表」で2026年10月21日に確認したものです。